2012年06月03日

肝疾患の食事管理について

先日、肝疾患に対する食事管理のセミナーを受けました。

セミナーの内容は大きく以下の3つ。
1. 肝臓は何をしているの?
2. 肝疾患はどういう病気?
3. 肝疾患での食事管理。

肝臓の働きの話の前に肝臓の場所と特殊な血液の流れについてお話しさせていただきたいと思います。
肝臓の場所は消化管と心臓の間、胸と腹を隔てる横隔膜のすぐ尾側にあります。
また、肝臓に流れ込む血管は2種類あり、1つは酸素を多く含む肝動脈、
もう一つは消化管から吸収された栄養素を多く含む門脈です。
肝臓を通過した血液は肝静脈を通って大静脈に運ばれます。

この肝臓の位置関係と血管の構造異常によって起こる病気については2.でご紹介したいと思います。

1. 肝臓は何をしているのでしょうか?
肝臓は体に必要なものを合成する製造工場、体に不要なものを分解するごみ処理場、また栄養をストックする貯蔵庫でもあります。
肝臓の主な機能は、1.代謝機能2.分泌機能、3.解毒機能、4.貯蔵機能、5血液凝固機能があります。
具体的には炭水化物の代謝、タンパク質・ビタミンの合成を行ったり、食物の消化を助ける胆汁を合成・分泌したり、
アンモニアや薬剤など体にとって不要なものを分解・解毒したり、糖分を蓄えたり、血液を固める因子を合成したりしています。
肝臓は沈黙の臓器と言われており、再生能力が高いため、機能的に大きな予備能力を持ち、
損傷などがあっても症状があらわれにくい臓器です。
逆に、症状が出たときには、病気がかなり進行している可能性があります。

2. 肝疾患はどういう病気なのでしょうか?
肝疾患には障害部位別に肝実質・胆道系・門脈の3つに分けられます。
肝実質(肝細胞)が障害される病気としては、炎症疾患(急性・慢性肝炎)や変性性疾患(空砲性肝症[犬]、肝リピドーシス[猫])、
腫瘍(肝細胞癌[犬]、リンパ腫)などがあります。
胆道系の疾患としては、胆嚢では胆泥症、胆石症、胆のう炎
胆管ではリンパ球性胆管炎[猫]、胆管癌[猫]、肝外胆管閉塞などがあります。
門脈の病気で有名なのは先天性門脈体循環シャントです。

これらの病気の診断には徴候(品種、年齢、性別、臨床症状)、血液検査、画像診断(レントゲン、超音波、CT)、
肝生検
などを駆使して総合的に行います。
多くの肝疾患の確定診断には肝生検による病理検査が必要となりますが、臨床現場においては肝生検前に治療をして、
その反応を見る診断的治療を行うことも少なくありません。
肝疾患の症状は元気消失、食欲低下、体重減少、多飲・多尿・多渇、腹囲膨満(肝腫大、腹水)、黄疸、神経症状(肝性脳症)、
血液凝固異常、嘔吐、メレナ(黒色便)
などがあります。
肝臓疾患以外の病気でもこれらの症状は出るので他の疾患との鑑別が必要です。

ここでは肝疾患の代表的な病気をいくつがご紹介したいと思います。

犬の慢性肝炎の要因は感染・免疫異常や中毒のほかに遺伝も関与していると考えられており、
好発犬種はドーベルマン、べドリントン・テリア、プードル、ウエスティ、ラブラドール、コッカースパニエル、ダルメシアンです。
特にべドリントン・テリアの銅蓄積性肝炎は有名です。
銅が体内に蓄積するとフリーラジカル(活性酸素)を発生します。
フリーラジカルが肝細胞を傷害する結果、肝臓の繊維化(肝硬変)を起こします。

先天性門脈体循環シャントは血管の異常で、本来肝臓につながっているはずの門脈に分枝(シャント血管)ができて、
肝臓を迂回して直接大静脈などの静脈に血液が流れる病気です。
門脈は腸から吸収された栄養や毒素を肝臓に運ぶ血管です。
本来肝臓で代謝されるはずの腸管内毒素が肝臓で解毒されず直接血液中をめぐるため、
重症化すると脳に影響を与え神経機能異常(盲目、よだれ、震え、発作、昏睡)を示します。
ヨーキー、シーズー、M・シュナウザー、シェルティーに多い病気です。

猫の肝疾患で多いのはリンパ球性胆管炎、肝リピドーシスとリンパ腫です。

リンパ球性胆管炎は免疫が関与していると言われています。
また、膵炎、炎症性腸疾患などを併発する三臓器炎に進行し、病態が複雑化しやすい病気です。
猫では銅が肝細胞に蓄積せずに胆汁中に排泄されやすいため胆管内でフリーラジカルを発生し胆管炎になりやすいとの見解もあります。

肝リピドーシスは肥満の猫が何らかの原因で食欲が低下すると発症する病気で、原疾患の治療と栄養補給が大切な病気です。

これら肝臓の病気で言えることは、肝臓は多くの栄養素の代謝に必要不可欠な臓器であるゆえに、肝疾患を患うと栄養失調になる事が多くなるということです。
そして、栄養欠乏が肝疾患をさらに悪化させてしまうため、肝疾患の管理には原疾患の治療に加えて、栄養学的サポートが重要であるということです。

3. 肝疾患での食事管理
食事管理のポイントは
T.エネルギー要求量に応じて、十分にカロリーを供給すること。
U.タンパク質などの栄養素の摂取を確保しつつ、肝細胞の再生を促す。
V.フリーラジカルの除去し銅の蓄積を防止することで、肝臓の障害を抑える。
W.肝性脳症や腹水などの合併症を予防あるいは最小限に抑えること。

これらを踏まえて、食事に必要な要素は、
@ 栄養補給に適切なタンパク質と脂肪
A 強化するべきものは亜鉛、食物繊維、抗酸化物質、カリウム、L−カルニチン
B 制限すべきものは銅、ナトリウム

@ 栄養の補給にはタンパク質と脂肪が重要ですが、タンパク質は分解されるとアンモニアを発生し肝性脳症を助長します。
高アンモニア血症を回避するためにタンパク質(芳香族アミノ酸)を制限しながらも、肝細胞の再生のために適切なたんぱく質(分岐鎖アミノ酸)を補充する必要があります。
また、タンパク質が不足すると体タンパク(骨格筋)の利用が増大し、アンモニアの生成量が増大するため、
体が必要とするタンパク質より少し多めに摂取するのが理想的となります。
脂肪は高カロリーで嗜好性が高いため、エネルギー欠乏により起こる免疫反応の減弱や肝性脳症悪化を減少させてくれます。
例外として胆汁の鬱滞、肝リピドーシス、末期の肝疾患、脂肪便があるときは脂肪の摂取は制限しなければなりません。

A 強化するべきものとして、亜鉛はアンモニアを分解する尿素サイクルに必要な物質です。
可溶性食物繊維は結腸内で善玉菌の栄養となり菌が増殖するときに窒素成分を取り込み、便と一緒に排泄されることで吸収を抑制したり、
腸内pHの低下によりアンモニアの生成・吸収を抑制します。
不溶性繊維は結腸通過時間を短縮し便秘を予防することで、腸管内毒素の吸収を抑制します。
抗酸化物質(ビタミンC・E、ルテイン、タウリン)は慢性肝炎、肝線維症や胆汁うっ滞性肝疾患において増加しているフリーラジカルから細胞を守る役割を果たします。
L-カルニチンは肝疾患時に欠乏しやすく、補給により脂肪代謝の改善に寄与し、
その結果、アンモニアの生成を抑制したり、猫の肝リピドーシスの発生を防止します。

B 銅はフリーラジカルを発生し、銅蓄積性肝炎を原因となるため制限し、ナトリウムは腹水を助長するため制限します。 

残念ながらこれらの条件を満たすフードは一般食にはなく、病院食を食べていただくことになりますが、
血液検査で肝臓の数値が高いだけではすぐに肝臓食ということにはなりませんので、病院食への切り替えは獣医師と相談の上行っていきましょう。

肝臓は沈黙の臓器です。
症状があらわれたときには病状が進行していることもあります。
定期的な身体検査と血液検査で早期発見していきましょう。

院長 豊福健
posted by rose-ah at 12:30| Comment(0) | 病気のアレコレ豆知識

2012年04月11日

慢性腎臓病の食事管理について


お腹の中にはそら豆のような形をした臓器が2つ左右にあります。
それが腎臓です。
今回、腎臓についてのセミナーがありましたのでお伝えしたいと思います。

1.腎臓は何をしているの?
腎臓の主な仕事は尿を作ること
血液をろ過して体に要らない老廃物を捨てる働き(ろ過機能)をしています。
体重10kgの犬の場合1日に53.3Lもの血液をろ過しています。
ろ過したものがすべて尿になってしまうとオシッコは大変な量になってしまいます。
そこで腎臓ではろ過した水分を再吸収する濃縮機能も持ち合わせています。
腎臓の尿細管では1日に53.1L の水分を再吸収し、200-250mlまで濃縮してオシッコとして排泄します。
その他の働きとしては、赤血球をつくらせるホルモンの分泌・血圧の調整・ビタミンD の活性化などがあります。

2.慢性腎臓病はどういう病気?
腎臓は1度壊れてしまうと機能が回復しない臓器です。
慢性腎臓病は多くの原因(感染症・炎症・循環不全・中毒など)が関与しながら、ゆっくりと腎機能が低下していく病気です。
犬よりもに多く、15歳以上の猫の約30%が慢性腎臓病と言われています。
腎臓は障害を受けても残った臓器で機能を補おうとするのでなかなか症状が出てきません。
症状が出てくるのは腎臓の機能が残り1/3になった時からです。
この段階になるとまず濃縮機能が低下して、薄いオシッコが大量に出るようになります。
脱水が起こり、のどが渇き飲水量が増加します。
さらに進行し腎機能が1/4まで減ってくると、ろ過機能も低下して嘔吐・食欲不振・沈鬱などの尿毒症症状がでてきます。
この段階になってようやく血液検査で腎臓マーカーに異常が出てきます。

慢性腎臓病は症状が出てきたときには腎臓の障害はかなり進んでいますが、かなり障害されるまで発見が難しい病気なのです。

病気は徐々に進行していき、病気そのものが改善することありません。
しかも、発見時にはかなり腎臓は障害を受けていますので慢性腎臓病の治療は保存療法と対症療法を行います。
先ずは保存療法食事・薬・輸液)で病気の進行を遅らせます。
それでも、いつかは悪化してしまいます。
その時は対症療法輸液・食事・薬)で症状を緩和させる治療を行います。

3.食事は大切なの?
慢性腎臓病の治療において食事はとても重要です。
食事療法の目的は大きく2つ
@残った腎機能を保存すること⇒進行を遅らせる(腎機能残り1/3以下)
A尿毒症症状を軽減すること⇒症状を抑える(腎機能残り1/4以下)

食事管理のポイントは4つ
T.リンの制限
U.EPA・DHAの強化
V.タンパク質の制限
W.十分なカロリー摂取


TとUは@の進行を遅らせるため、VはAの症状を軽減するために重要です。
T.リンは血液中でリン酸カルシウムとなり腎臓の尿細管に沈着し腎機能の低下させるためリンの制限が大切です。
中等度の腎性高窒素血症(IRISステージV)を伴う犬猫にリンを制限した食事を与えることにより生存期間が猫で300日から600日へ、犬で200日から600日まで伸びたという論文もあります。
U.EPA・DHAには血管拡張作用があり、腎臓にある糸球体の血圧を下げ、ろ過量を上昇させます。
それにより尿たんぱくや血中老廃物(クレアチニン)濃度の減少に寄与します。
V.タンパク質の制限は今ではAの尿毒症期の動物に行います。
@の段階の動物では尿からのタンパク排泄が増加しているので、むしろ健康な動物よりタンパク質の要求量が増えているのであえてタンパク質の制限はしません。
Aの段階になると尿からのタンパク排泄は増えていますが、摂取したタンパク質を分解してできる尿素による体への悪影響(尿毒症)のほうが強くなるため食事性タンパク質の摂取を制限します。
W.タンパク質を制限する代わりに脂肪や炭水化物からカロリーを摂取します。
給与時のポイントとしてはシニアになると腸の消化吸収機能が低下しますので、毎日の食事を3~4回に分けて与え消化吸収率を最大にすること。
また、38~39℃に温めて与えると、より嗜好性が高まります。
温めすぎはビタミンが壊れますのでご注意ください。

リンの制限は一般の食事では難しいので、病院食がおすすめです。
残念ながら嗜好性が優れているものではありませんので、症状が出始めの食欲があるうちからの早めの切り替えがおすすめです。

慢性腎臓病の治療には特効薬というものがありません。
いかに早く気づき、進行を遅らせるかが鍵となります。

健康診断といえば血液検査ですが、シニアになったら尿検査もおこなっていきましょう。
腎臓病の早期発見には尿検査が欠かせません。

院長 豊福健
posted by rose-ah at 15:57| Comment(0) | 病気のアレコレ豆知識

2012年03月30日

上部消化器疾患について

先日、消化器の勉強会に参加してきました。

上部消化管には食道・胃と十二指腸が含まれますが、今回は食道に関してお伝えしたいと思います。

犬と猫とでは食道の動きに差があることをご存知でしたか?
口から入った食物は食道の運動(蠕動運動)によって胃へ送り出されますが、猫は犬に比べ、とても食道の動きが悪い動物です。
犬の食道は1秒間に75-100cmの速さで動けるのに対し、猫は同じ時間で1-2cmしか動くことができないといわれています。
そのため、猫はしっかり投薬したつもりでも実はお薬が食道に残ったままになっていたりすることがあります。
代表的な例は薬剤(抗生物質:ドキシサイクリン、テトラサイクリン)による食道炎です。
アルカリ性の強い錠剤が食道に長時間残存することで食道炎が起こります。
この薬剤性食道炎の予防には、お薬を水に溶かして与えるか、錠剤を投与後6ml以上を水を飲ませることが推奨されています。

食道炎といえば、犬も猫も麻酔後の食道炎にも注意が必要です。
麻酔により下部食道括約筋が緩み、胃液が食道内に逆流することで食道炎は起こります。
症状は長時間の麻酔後1週間前後でよだれや吐出がでてくるもので、麻酔直後には症状がでてこないのが特徴です。

また、食道内異物に関するトッピックもありました。
食道内遺物は5kg以下の小型犬(チワワ・ヨーキー・シーズー)で多く、全体の80.6%を占めています。
閉塞部位は食道遠位(胃側)が多い(52.2%)。
合併症は比較的高い割合(8.9%:気胸・食道憩室・食道狭窄症)で発現し、死亡率も4.4%(気胸患者)と決して低くない。
合併症は閉塞後の経過が長いほど起こりやすくなるため、合併症を減らすためには速やかに異物を除去することが大切です。
まずは骨・ジャーキーやリンゴなどを丸呑みされないように注意することが大切です。

他にも食道疾患として有名なのが巨大食道症です。
発生率が高いわけではありませんが、発症すると治療が難しい病気です。
原因は局所型重症筋無力症・副腎皮質機能低下症・甲状腺機能低下症や鉛中毒などがあげられます。
重症筋無力症の場合、薬に対する反応が悪く対症療法が治療の中心になります。
立位での食事・胃からの食物排泄を促す薬や2次的に起こる逆流性食道炎・肺炎の治療を行います。
巨大食道症の最新情報としては、若齢(13か月以下)で発症した場合は誤嚥性肺炎に注意すれば比較的予後がよく(中央生存期間:2,381日)、
6-8歳齢で診断され場合(62日)・誤嚥性肺炎がある場合(16日)・体重が25kg以上の場合(61日)は予後が悪いという論文が出ています。

食道の疾患にもいろいろありますが、誤食は飼い主様がコントロールすることのできるものです。
飲み込んでしまいそうなものはないか、生活環境を毎日チェックしてくださいね。

他にも胃と腸のお話もありましたが、それはまた次回にさせていただきたいと思います。

院長 豊福健
posted by rose-ah at 10:09| Comment(0) | 病気のアレコレ豆知識