2012年02月05日

蛋白漏出性腸症(PLE)について

東京大学で定期的に行われている勉強会に参加してきました。
今回は、蛋白漏出性腸症(PLE)についての講演でした。

PLEとは何らかの基礎疾患により、蛋白が腸粘膜から腸管腔に漏出することで低蛋白血症を引き起こす病気です。
代表的な基礎疾患としては、慢性腸炎(炎症性腸疾患IBD)・腸リンパ管拡張症・消化管腫瘍(リンパ腫)があり、内視鏡や・開腹による組織生検により診断します。

症状は発生頻度順に下痢・嘔吐・体重減少・腹水・胸水・皮下浮腫・血栓症(脳・肺・肝門脈)などがあげられますが、消化器症状を伴わず、腹水のみ貯留する場合もあります。
上記の疑う症状がある場合は血中のアルブミン(Alb)を測定し、低Alb血症を認めたときPLE可能性が出てきます。
低Alb血症を起こす消化管以外の疾患を除外しPLEと診断します。
代表的なPLEの鑑別には内視鏡や開腹による組織生検が必要です。
しかし、IBDとリンパ腫は組織検査でも病理医によっても診断が分かれることがあり、正確な診断のために採材の仕方にも工夫が必要とのことでした。

PLEの治療は原因によってさまざまですが、代表的な疾患の治療法を挙げると、
@炎症性腸疾患(IBD)
ステロイド・抗生剤・低アレルゲン食・免疫抑制剤
Aリンパ管拡張症
ステロイド・低脂肪食・中鎖脂肪酸・抗生剤
Bリンパ腫
抗がん剤・外科摘出
残念ながらこれらの病気は完治する病気ではありません。
IBD・リンパ管拡張症は基本的には治療を続ける必要があります。
リンパ腫は抗がん剤プロトコール終了後、無治療にて再発がないか経過観察が必要です。

また、疾患によって予後も変わってきます。
個体差がありますが、生存期間の長い病気順でIBD・リンパ管拡張症>小細胞性リンパ腫>大細胞性リンパ腫となります。
大細胞性リンパ腫は残念ながら、積極的に行っても快方に向かわない場合が多い病気です。

今回の講義のポイントは「いかに正確な診断を行うか」でした。
特に、IBDとリンパ腫では予後がかなり変わってきますが、組織生検の仕方で診断が変わります。
当院にPLEを疑う患者様がご来院されたときには、現在内視鏡の設備がございませんので、ご希望があれば東京大学附属動物医療センターをご紹介させていただきたいと思っております。
これからも正確な診断、EBMに基づいた治療をしっかりしていきたいと思います。

院長 豊福健
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2012年01月25日

歯周病について(後篇)

後篇は歯周病の治療についてです。

歯周病における口腔内検査法
 歯周病の治療の前に口腔内検査を行って歯周病の程度を把握します。
はじめに大まかに歯垢歯石の付着状態や歯肉や口腔粘膜の腫脹、色調などを検査して、その後、麻酔をして詳細に口腔内検査を行います。
具体的には、歯肉の炎症程度、歯垢や歯石の付着程度、歯の動揺度、歯根分岐部病変、歯周ポケットの深さなどを確認し、口腔内X線検査で歯槽骨や歯根膜腔の状態を確認して歯周病の程度を確認して治療方針を決定します。

さまざまな歯周病の治療法
歯周外科治療は炎症のある組織を除去することや進行を阻止すること、歯周病の原因となっている口腔環境を外科手技によって改善することです。
歯周病の基本的治療は、歯垢・歯石除去ですが、通常の歯垢・歯石除去では歯面やポケットを清潔にできない場合、歯周外科治療や、抜歯を行います。
歯垢・歯石除去後、そのまま放置すると早急に歯垢・歯石が付着するために処置後の口腔衛生管理(日常の歯磨き)が重要です。

歯垢・歯石除去
 通常、歯垢・歯石除去(スケーリング)は、歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石において行います。
これらを除去した後に歯垢細菌によって汚染されたセメント質表層を除去し、滑沢な根面にするルートプレーニングも行います。
さらに歯冠部では、粗造な歯面を滑沢にするポリッシング(歯面研磨)も行います。

1)歯垢・歯石除去(スケーリング)
超音波スケーラーを用いて思考・歯石を除去します。
2)ルートプレーニング
ルートプレーニングとは、歯周ポケット内の根面の汚染セメント質を除去して滑沢な根面にすることを目的として行います。
3)キュレッタージ(歯肉縁下掻爬)
キュレッタージ(歯肉縁下掻爬)とは、炎症の強い歯周ポケット内の歯肉壁を掻爬することをいう。キュレッタージ(歯肉縁下掻爬)はポケットに面する炎症が強い上皮と結合組織を掻爬・除去して歯肉を根面に密着させて再付着させることを目的として行います。
4)ポリッシング(歯面研磨)
 スケーリング後の歯面は、スケーラーを用いた操作で損傷を受け、粗造であるため、そのまま放置すると歯垢・歯石が付着しやすくなるため、研磨剤を用いて歯面を平滑にすることで、歯垢・歯石の再付着の予防します。
5)洗浄
 以上の一連の操作が終了したら、ポケット内や舌および口腔前庭部に研磨剤や歯石片などが残存していると歯肉が治癒しにくくなるため、歯肉縁上および歯肉縁下をクロルヘキシジン水溶液、生理食塩水、および中性水などで徹底的に洗浄します。

抜歯
歯垢・歯石を除去しても口腔内を健常に維持できないと判断されたとき抜歯を行います。
抜歯が適応される場合
1)重度の歯周病で歯槽骨の吸収や歯の動揺が著しい場合
2)歯冠や歯根が破折していて修復あるいは保存が不可能である場合
3)重度の齲蝕(虫歯)
4)外歯瘻や内歯瘻が認められた歯
5)重度の根尖周囲病巣を認めた歯
6)歯の吸収病巣を認めた場合
7)重度の猫の歯肉口内炎の治療法
8)重度の接触性潰瘍性歯周口内炎を引き起こしている歯
9)骨折線上にある歯周病罹患歯
10)後継歯が存在する乳歯遺残
11)歯根吸収が生じている場合
12)歯が嚢胞内に存在する場合
13)残存歯根
14)顎の発達や咬合に影響をおよぼす歯の位置異常―叢生歯・回転歯・過剰歯   

歯石除去後の管理と注意事項
 1)体温の低下
全身麻酔下で、口腔内洗浄を何度も行うため体温が低下しやすいので、帰宅後も室内を温かくする。
1)咳
 気管チューブの挿管や口腔内を洗浄により、気管への刺激や気管に洗浄液が入る可能性があり、咳が認められることがある。
ひどく咳き込む場合は肺炎の可能性があるため特に注意が必要。
3)食事
 縫合部位が接合するのに少なくとも2週間を要するため、硬いフードを給餌すると縫合部位に当たり、痛がったり、状態により縫合部位が開いてしまう可能性があるため少なくとも抜歯後2週間は柔らかい食事を与える。同様の理由から硬めの玩具を加えて遊ばせない。
4)顔面の腫脹
 抜歯箇所が一時、組織反応により腫脹することがある。
5)流涎に血液が混じる
 抜歯後、しばらく流涎に血液が混じることもある。
6)鼻汁、くしゃみ、鼻出血
口鼻瘻管の場合、鼻腔から鼻汁やくしゃみ、鼻出血を認めることがある。
7)眼脂、結膜の発赤
眼窩下に近い上顎臼歯の抜歯の際に眼脂や結膜の充血を認めることがある。
8)口腔ケアの時期
抜歯後2週間は歯みがきを見合わせて口腔内洗浄やデンタルジェルの塗布のみを行う。ただし、縫合していない部位では、通常の歯みがきなどの機械的清掃を行う。
9)エリザベスカラーの装着
前歯の抜歯の際は、縫合部位を自ら気にして床に擦り付けたり、前肢で擦ったりする可能性があるために原則としてエリザベスカラーを装着する。
10)抗生物質の投与、疼痛管理
口腔内の炎症や処置の侵襲の程度により数日間、抗生物質や消炎鎮痛剤などを投与する。



口腔内の健康の維持のために、歯垢・歯石除去や抜歯は有効な治療法ですが、一番大切なのは歯垢・歯石が付かないように日頃からデンタルケア(歯磨き・デンタルガム・歯科用おもちゃ・歯科用食など)を行うことです。
体の健康は歯の健康から。
平均寿命が延びて歯のトラブルも増えています。
愛犬・愛猫が、いつまでも快適にご飯を食べることができるように、毎日のデンタルケア頑張りましょうね。

ボリュームいっぱいの講義でしたが大変勉強になりました。

院長 豊福健
posted by rose-ah at 14:44| Comment(0) | 病気のアレコレ豆知識

2012年01月22日

歯周病について(前篇)

先日、歯科セミナーを受講してきました。

歯周病は、犬や猫において口腔歯科の中で最も多い疾患(3歳以上の犬や猫の約80%)ですが、口腔疾患の中というより、すべての疾患の中で最も多い疾患ともいわれています。
歯周病は、歯垢中の歯周病原関連細菌に対して宿主の炎症性反応の結果、引き起こされます。
歯肉のみ侵された歯肉炎は治療によって改善されますが、歯周組織まで侵された歯周炎では完全に回復させることは難しいものになります。
犬や猫においては、歯周病の罹患率が高い理由として、食餌内容(歯に付着しやすい食事の影響)やストレスとの関連、あるいは寿命が延びたことなどが考えられています。
また、歯が摩耗しやすい食餌や咀嚼行動は、歯垢・歯石の付着率を低くさせるため歯周病になりにくいと考えられています。    
一般的に、高齢になるにしたがって多くの犬・猫で歯周病の発生率は高くなりますし、小型種は大型種より顎の大きさに比較して歯の大きさが相対的に大きいため、歯と歯の隙間(歯隙)が狭くなり歯垢が付着しやすいため小型犬は大型犬より本症の発生率は高くなります。
とくに歯垢・歯石が付着しやすい部位は唾液腺開口部近くの上顎臼歯の頬側面(外側面)ですので、歯磨きの際は上顎臼歯を重点的に磨きましょう。


歯周病の発生機序と歯周病治療の考え方

歯周病は、歯垢・歯石除去を実施した犬や猫においても唾液由来の糖蛋白が歯面に付着し、ペリクル(獲得被膜)が形成されることから直ちに始まります。そして、歯垢の付着はこのペリクルの上にグラム陽性球菌が付着することから引き起こされます。
歯垢が歯面に付着してから6〜8時間後に歯肉に炎症を生じ、歯垢から付着から3日〜5日後に歯石に変化します(人では、口腔内が弱酸性のため1カ月以上かかかる歯石形成も犬の口腔内はpH8〜9でアルカリ性のために短時間で歯石形成されてしまう)。
歯垢は、細菌由来の多糖類、細菌、食物残渣、白血球、マクロファージ、細胞の残骸、脂質、唾液由来の蛋白質などから成る。歯垢1g当たり約1000〜2500億個の微生物を含んでいるといわれています。
これらの歯垢細菌が歯肉辺縁に常に接すると歯肉に炎症反応を引き起こすようになり、外見的に歯肉は腫脹し、最初、歯肉ポケット(仮性ポケット)が形成されます(この病態を歯肉炎という)。
この状態を放置すると、歯面の歯垢・歯石はさらに蓄積し、炎症は進行して歯周組織にも炎症を引き起こすようになります(これを辺縁性歯周炎と呼ぶ)。
歯石中の細菌はすでに死滅しているので直接炎症の原因にはなりませんが、その表面が粗造であるため、その上にさらに歯垢が付着し歯肉炎を悪化させます。
動物では、胎子のときには無菌状態であり出産時に母体の産道で細菌に感染し、その後、有菌状態となります。口腔内では、歯面ばかりでなく、舌、歯肉溝、唾液などで常在細菌叢が形成されている。
人においては、歯肉炎を引き起こす細菌として、すべての歯垢中の細菌が関与していることが判明しています。
歯垢中の細菌は、生体側からの感染防御機能や抗生剤から身を守るため、バイオフィルムを形成します。このバイオフィルムの存在により抗生剤が効きづらくなるため、機械的なバイオフィルムの除去が必要になります。具体的には、鎮静・麻酔下でスケーラーなどを用いて歯垢・歯石除去をおこないます。


歯周病が進行して行きつく先は?

通常、歯が脱落すると歯周病は消退しますが、その状態にいたるまでに下記の症状を示すことがあります。
歯周炎が進行すると、根尖周囲病巣を引き起こし、さらに、炎症が進行して皮膚に瘻管を作り外歯瘻となったり、口腔粘膜に瘻管を形成すると内歯瘻に至ることがあります。
歯周病により、上顎骨が破壊されると口鼻瘻管にいたることも少なくありません。
くしゃみ、鼻汁、鼻の上をよくなめるしぐさをするなどの症状は口鼻瘻管が原因であることが比較的多く、小型犬では、歯周病による下顎第1後臼歯部や犬歯などの歯槽骨の垂直骨吸収が原因で歯周病性下顎骨骨折を認める場合も少なくありません。
さらに、獣医学領域においても人と同様に歯周病の全身疾患への影響が議論されています。細菌、内毒素(LPS)、サイトカインなどの炎症性介在物質が歯肉溝から全身循環に入り、全身性に影響を与えることが示唆されており、とくに歯周病に罹患した犬で心臓、肝臓、および腎臓において炎症性細胞浸潤を認めた複数の報告があります。

後篇に続く
posted by rose-ah at 17:07| Comment(0) | 病気のアレコレ豆知識